セレナード第12番ハ短調《ナハトムジーク》1

管楽八重奏のために書かれているこの曲は、モーツァルトのセレナードの中でももっともセレナードらしくない作品として知られている。

セレナードは元来娯楽音楽の一種で、しかも当時ハルモニー・ムジークといってこうした管楽合奏のスタイルが好まれていたにもかかわらず、どうしてセレナードらしくない作品を作ったのか、その理由は明らかではない。

実際この曲を聴くと、その真面目で厳粛な内容に驚かされるし、近代ならばまさしく演奏会用の作品というべき傑作である。

それは一つにはこうした娯楽音楽としては珍しいハ短調で書かれていることや、楽章構成が交響曲や弦楽四重奏曲と同じ形の四楽章であることにもよる。
実際モーツァルトのすべてのセレナードやディヴェルティメントの中で、短調の調性をとっているのはこの曲だけである。

セレナード第11番変ホ長調 3

楽章構成は、シンメトリックな五楽章によっており、中央にアダージョ楽章を置き、両端にアレグロ、第二、第四楽章にメヌエットを配した形をとっている。

この作品の演奏では、八重奏の形をとられるのが普通であり、とくにレコーディングにおいては、同じ楽器編成によるハ短調のセレナードと組み合わされることが多い。
そこでは各楽器の和声的、旋律的な扱いがじつに巧妙であり、生みだされる響きも美しく充実したものとなっている。

楽章構成は、すでに述べたようにシンメトリックに配置されているが、性格的には両端楽章はもちろんのこと、ふたつのメヌエットにも対照的なものが見られる。
演奏については、優劣よりも、むしろアンサンブルの性格への好みが先行するように思われる。

セレナード第11番変ホ長調 2

作曲は、ウィーンの宮廷に仕えていたH・フォン・ヒックルの妹のためになされているが、すぐれたハルモニームジークとして楽師たちからも好まれたようであり、残された父レオポルト宛ての手紙には、作曲してから間もないある夜、彼らが、モーツァルトの住んでいた家の中庭で演奏して驚かせたということが報じられている。

もっとも、その時はクラリネット、ファゴット、ホルン各二本という六重奏の形であったことになる。
現在、一般的に演奏されているモーツァルト自身がさらに二本のオーボエを加えて八重奏とした版は、1982年7月になって作られているからである。

そのほかにも、さらに二本のイングリッシュ・ホルンを加えて編成を拡大した楽譜が残されているようであるが、これらのことは、この作品が、かなりの人気をもっていたことを裏づけているようにも思われるし、モーツァルトにとっても自信作であったことを思わせている。

それは、彼の最後の年から見れぼ10年前ということになるが、25歳のモーツァルトの若々しさと、すでに成熟していた書法とが、単なる娯楽音楽としての領域を越えて、この作品の内容を豊かにし得た結果と見てよいであろう。

セレナード第11番変ホ長調 1

モーツァルトの機会音楽、社交音楽のジャンル、すなわちセレナード、ディヴェルティメント、多様な舞曲などの創作時期については、5つに分けて考えられることが多い。

この変ホ長調のセレナードは、そうした中で第四期のなかばに生みだされたものであり、1781年10月にウィーンで作曲されている。

この時期のモーツァルトが、管楽器のアンサンブルにかなり強い志向を示していたことは、この作品と前後して書かれたハ短調のセレナードや、いわゆる《グラン・パルティータ》などの存在によっても知ることができよう。

セレナード第10番変ロ長調《グラン・パルティータ》3

近年の学者の研究では、この曲は従来説のようにミュンヘンで1780年に作られたものではなく、1782年8月4日、モーツァルトの結婚式のあと、ワルトシュテーテン男爵夫人の邸で行なわれた祝宴の際に
使うために作られたという説が有力になってきた。私にもそのほうがはるかに妥当だという気がする。

なぜなら、もし結婚できたら神に感謝のミサを捧げようと決意して、あの偉大なハ短調のミサを書き始めたり、結婚式が終わった瞬間に感動したモーツァルトが泣き出したというほどに、モーツァルトはこの結婚に賭けていたからである。
その思い入れがあって初めて、このような熱い心のほとばしる音楽が成立するだろうと思われるのである。

演奏にはかなりの名演がそろっているが、一応ベルリン・フィル管楽アンサンブルをトップに挙げておこう。
フルトヴェングラーやクレンペラーといった巨匠が自ら指揮したものもあるし、古楽器グループも数多く録音しているが。

セレナード第10番変ロ長調《グラン・パルティータ》2

弦バスと十二管で演奏するチームはあまり利口な考えとはいえない。
なぜなら、おそらく初演のときに、コントラファゴットの奏者が見つからなかったために弦バスとしただけで、作曲者はもともと管楽器だけにしたかったことは明白だ。
のちにモーツァルトの親友で、切っても切れない縁の悪友のクラリネット奏者のアントン・シュタードラーがこの曲を公開の席で演奏したとき(もちろんモーツァルト立ち会いのもとに)これは正しく十三管の形で演奏されているのである。

戯曲(ならびに映画)『アマデウス』一世を風靡したが、その中で作者シェファーは、モーツァルトの才能にサリエリが打ちのめされる劇的なシーンの音楽に、この十三管のセレナードの第三楽章アダージョを使用した。

これはまことに効果的で、この楽章の神秘性は、所詮天才だけに発想できるものであるだけに、一発でサリエリが倒されるに十分なパンチとなっていたし、あのシーンでこの音楽が鳴ったときには、こちらの背筋も寒くなったものである。

セレナード第10番変ロ長調《グラン・パルティータ》1

グラン・パルティータと呼ばれ、通称十三管のセレナードと呼ばれるこの曲は、八管のための二曲(K三七五、三八八)と並んで、史上最高の管楽アンサンブルのための曲となっている。

"十三管"とはいうものの、オリジナルの譜面は、最低音域の楽器の段にコントラバスと記入されているので、厳密にいうと、"十二管と一弦"ということになる。

従来ここは慣習に従ってコントラファゴットを使うチームが多かったが、最近はオリジナル楽譜に従えとばかり、弦バスと十二管で演奏するチームがある。

セレナード第9番二長調《ポストホルン》3

編成は、フルート2、オーボエ2、ファゴット2、ホルン2、トランペット2、ティンパニおよび弦合奏で、このほか第六楽章の第ニメヌエットで、フルートがフラウティーノ(ピッコロ)、ホルンがポストホルンに一本持ち替えて演奏する。

このピッコロは第一トリオ部に独奏楽器として出てくるが、モーツァルトの自筆譜には書かれていないことから、ピッコロを用いない演奏も多い。
もっとも新しいヴェーグ指揮ザルツブルク・モーツァルテウム・カメラータ・アカデミカの演奏には入っているし、演奏もとてもよい。

なお、このセレナードには前後に《二つの行進曲二長調》K三三五が置かれることがある。
この行進曲が「ポストホルン」セレナードのために作られたという証拠はないのだが、この形の演奏も最近は多い。

セレナード第9番二長調《ポストホルン》2

ポストホルンの音はもちろん金菅音器に属する、しかもピストンのない無弁の楽器だから、〔ドーミーソ〕の音がもっともよく響くために、モーツァルトのこの曲でもその主和音内の音だけしか使われておらず、またそれがいかにもラッパの特色を感じさせる。

作曲は1779年8月3日で、ザルツブルク時代最後のセレナードである。
この年の1月、1年半にわたるマンハイムやパリ旅行から帰ってきたモーツァルトが、この旅行でマンハイムやパリから得たさまざまな新しい音楽的な要素がこの中に含まれていることでも、それまでのセレナードよりもずっと充実した作品といえる。

全七楽章から成り、第二、第六楽章にメヌエットを、また第三、第四楽章に第一フルートと第一オーボエが活躍するコンチェルタンテ風な楽章を置いている。
これは曲ハ型的なセレナードの形だが、楽器編成も大きく、かつヴァラエティに富んでおり、その用法がすぐれているから音色的にも変化があって楽しい作品になっている。

セレナード第9番二長調《ポストホルン》1

この曲は第六楽章におかれた第ニメヌエットの第ニトリオ部に、ポストホルンが使われていることから「ポストホルン」の名で知られている。
このポストホルンは当時郵便馬車の駅者が郵便を運んできたことを知らせる信号音として用いていたもので、非常に小型の、しかも無弁のホルンである。

現在でもウィーンなどの楽器屋で売っているが、いまでもこのポストホルンのマークがオーストリアの郵便局では使われている。

このポストホルンの音型を用いた音楽作品も少なくなく、たとえばシューベルトの歌曲集《冬の旅》の中の第十三曲「郵便馬車」でも、ピアノの前奏部の高声部に出てくる〔ドーミーソ〕だけの音型は、このポストホルンの音を表わしている。

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